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生き残らない編集者と、生き残る編集者。 —編集者の生存戦略

「コーポレート・コミュニケーション(所謂、企業広報)には編集者が必要だ!」と強く感じたので、数年前に「編集支援サービス Editorial X」をリリースしてみました。

…… 盛大に滑り散らかし、一切受注につながりません(泣泣泣)。

とはいえ、今後 編集スキルは拍車をかけて重要性が増していくと強く感じます。

今回は、個人的な経験則や所感から、クライアントが求める“編集力”を考察してみました。本記事のタイトルで言及している“生き残らない”とは、“企業が求めない=お金に換えづらい、対価を得づらい”意味を指しています。

※本記事でいう編集者=出版業界ではなく、編集プロダクションのような支援会社に属する人たちのこと


なぜ、編集スキルは単体で売りづらいのか?

原稿やデザインのような成果物のない、“無形商材に近い”からかもしれません。

マーケティングやWeb業界の職種に置き換えると、“編集者=ディレクターやプロジェクト・マネジメント”に近い、コミュニケーション業務だと考えられます。

編集者のパブリックイメージ
書籍や雑誌、漫画などの内容を企画して、著者やライター、カメラマン、デザイナ-など、制作に携わる関係者に制作の方向性を示し、企画したものを作り上げていくこと。 具体的には、企画・構成、アポ入れ・取材、記事の編集、クリエイターへの依頼、制作物のチェック、校正、進行管理、予算の配分など

ただ、編集・メディア業界にどっぷり使っていない企業広報の方が通常 思い浮かべるのは「編集者=テキストコンテンツ(=記事)の編集をする人」。

例えば、

  • 編集者が入った場合と入っていない場合のアウトプットの品質の差がイメージできない、わからない

  • 自分でもある程度書けるので、編集者が介在する価値がわからない

  • 「編集者+ライター」より「ライター直発注」の方が数本作れてコスパがいい

  • ライターさえいれば作り上げることができそう

  • 、必要性は薄っすらと感じているが上席が納得するほどの説得論理をまとめられない

など、「QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)」の観点でも、「必要性は感じるが必然性を感じない(=潜在ニーズ)」ため、支援会社の立場としても「必然性を提案できていない」ことが課題でもあります。

独自の価値を提供している、◯◯な編集者たち

そんな中、“独自の編集ソリューション”を提供している編集者の方々を勝手に紹介します。

#01 “交流”の編集者:「トークのイチロー」草彅洋平さん(元:東京ピストル)

書籍編集者からキャリアをスタートさせ、東京ピストル(現:BAKERU)を創業し、場(コミュニティやイベント)の編集のプロとして活躍されています。また、サウナの歴史をまとめた「日本サウナ史」を出版、サウナ界に「サ学」というジャンルを出現させました。

当初は、トーク力の高さから「トークのイチロー」を名乗っていましたが、いつからかその肩書は抹消されていました(僕は好きだった)。

#02 “社長”の編集者:竹村俊助さん(WORDS代表)

ご自身が経営者なこともあり、経営者の立場・視点を持って思考などの情緒価値を言語化→ブランディングのサポートまでを行う「顧問編集者」のプロフェッショナル 竹村俊助さん。

ターゲットを経営者に絞ることで、新しい編集者像を確立されました。

#03 “個人”の編集者:みずのけいすけさん(元:note)

「パーソナル編集者」として、パーソナルトレーナーの如く、個人の思考やノウハウを言語化→ブランディングのサポートを行われている、みずのけいすけさん。

noteという、個人ブランディングを行う場出身だからこその強みを活かされています。私も編集者として仲間に入れてもらいたいものです(ぼそり)。

生き残らない編集スキルは……

コンテンツの進行管理やディレクションをする“だけ”。

プロジェクト・マネジメントや、外部との折衝、記事ディレクションなど、企業広報の担当者が保有するスキルセットの上位互換なだけでは対価を払う価値を感じてもらいのも事実です。

特に、企業広報は「社員が主軸となる企画」が主になるため、外部にいる支援会社に編集業務を委託しても、コミュニケーションコストがあまり減らないから。

その流れもあってか、フリーランスの編集者・ライターを準委任契約で雇入れ、社員のように動ける人を入れ、内部の機動力を一気に上げる企業も増えてきたと感じます。

生き残る編集スキルは……

「◯◯ ✕ 編集」の◯◯を何とするか。

一部、的外れな内容があるかもしれませんが、個人的な経験も踏まえて妄想してみます。

#01 コミュニケーション・デザイン設計 ✕ 編集

「コンテンツを作ることがゴール」と誤解している担当者・編集者は非常に多いです。「コンテンツを作ったら、勝手に色々な人に届いた」なんてことは、ほぼありえません。

もはやコンサルティング領域になりますが、社内外のステークホルダーが触れるタッチポイント(イントラネット、企業サイト、オウンドメディア、SNS、メルマガ、CRMツールなど)の役割と人の流れ、触れるタイミングのコンテンツの見せ方を整備して、“情報の伝達の流れ”を設計するスキルは必須になると思われます。

例えば、メディア全体の俯瞰図を作ってSNSやインターナルからのタッチポイントを整理

コンテンツ内のUX設計 ✕ 編集
Webディレクターに近い業務になってしまいますが、IA(情報設計)やUX(ユーザー・エクスペリエンス)などのデジタル知見があれば、「コンテンツの途中で適切な関連リンクを貼る」「前半30%での離脱が多いから、区切りとしてマイクロCVを設置する」など、ユーザーの行動を加味した構成を設計することができます。

#02 コンテンツのHow・資産設計 ✕ 編集

“作りやすい、イメージしやすい”といった理由から、「コンテンツのアウトプット=記事(テキスト)」という方も多いです。記事はあくまでも手法の一つで、What(伝えたい内容)によって変わってきます。

企画を行う際に、

  • 記事

  • 動画

  • 音声

  • ホワイトペーパー

  • インフォグラフィック

  • SNS

など、幅広い引き出しでHow(どうやって)を設計できる編集者は重宝されます。

加えて、

  • 取材の様子を「音声と記事」の2種類のアウトプットに転換

  • インフォグラフィックの一部を切り出したSNS用のカジュアルコンテンツ化

  • 複数の記事公開後に特定テーマでまとめたホワイトペーパー化

など、“1取材=1コンテンツ”という縛りにとらわれないコンテンツの資産化を見据えた設計も付加価値を出しやすいです。

#03 生成AI ✕ 編集

これもトレンドですね。

Web制作でいうと、ビジュアルツールキット「Canva(キャンバ)」や高品質なデザインテンプレート、ノーコードツール……

コンテンツ制作でいうと、ChatGPTを始めとした生成AIツール……

使い方さえ慣れてしまえば、素人目ではそこまで違いのわからない品質まで仕上げることができる領域に着実に近づいています。

「生成AIは二次・三次情報で、人力の価値は一次情報だから大丈夫」と、現実逃避をしても、脅威は確実に迫っています。

なぜなら、「作り手が徹底して追い求めるほどの“高品質”を、受け手や企業が求めることは“ほぼない”から」

とはいえ、手を抜けといっているわけでは到底なく、「生成AIで効率的なリサーチや基盤づくりを行い、今まで提供できなかった“付加価値”に工数を転換する努力」をするべきだと思います。

#04 SNS ✕ 編集

関係者でない限り、「わざわざ、コンテンツを読むためにオウンドメディアに足を運ぶ」単純なユーザーはあまりいません。

一番最初のユーザーとのタッチポイントでもあり、コンテンツの重要な集客手段でもある、SNSでどのようなクリエイティブを企画するかも、広義な意味では編集の領域になります。特に、企業広報の領域では、SNSコンサルティング・運用のみ切り離して外注することはコストパフォーマンスが合いづらいから。

以前は、OGP要素(SNS投稿時に表示されるサムネイル画像、タイトル、リード文、URLの総称)をベースに、コンテンツの要約と紹介のみ行うケースが多々見られました。

▼よくある投稿例w

ですが、昨今では、

  • コンテンツの要点を端的に理解できるスライドショーや動画

  • Xで収まるような短文の読み物

など、メディアに飛ばずとも企業が伝えたいことが伝わる手法もよく見かけるようになりました。

“無形商材”だからこそ、付加価値のアップデートを。

正直、所属していた事業会社や、今まで携わってきたお仕事の経験からくる見解なので、個人的なバイアスもあるため、あまり偉そうなことは言えません。

ですが、「コトバという分野は、品質・価値の目利きが非常にしづらい商品」なので、どれだけ一つの武器を徹底的に磨いても、売りやすくなるわけではないと感じています。

“無形商材”だからこそ、お客さまにとって「わかりやすく、価値があり、納得してもらえる」スキルを身につける一助になれば幸いです。

※本記事は、完全に個人の見解なので責任は取れません

文:ヤスダツバサ(Number X. CEO)
Number X, Inc. CEO/DeeTeller, Inc. CCO。デザインコンサルティングファームのWebプロデューサー・プロジェクトマネージャー・グロースハッカーとして、東証一部上場企業のオウンドメディア/Webサイト/コンテンツ制作に従事。2018年からソフトバンク株式会社の広報本部にて、副編集長としてオウンドメディアのプロジェクト・マネジメントやグロースハック、編集に従事。
・X:@283_oj
・note:https://media.number-x.jp/
・Lit.Link:https://lit.link/283sun

文:ヤスダツバサ(Number X)

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