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【現地人に聞くジョージア🇬🇪事情】デジタルノマドが“沼る”国のリアルな暮らしと月収格差・物価事情

日本から西に約7,750km。
ヨーロッパの最東端にあるコーカサス3国の1つ、ジョージアという国に今私は暮らしています(某コーヒーブランドではありません。笑)。

文:車 俊治(くるま・としはる a.k.a. KURUMA)
私の経歴を紹介すると日本で約16年、ベトナムホーチミンで約3年間いくつかのIT企業でサラリーマン人生を過ごしました。その後、コロナ禍をきっかけにデジタルノマドに転身しジョージアのトビリシに移り住み、今ITフリーランスとして、ウェブマーケターやウェブコンサルタントの仕事をしています。

https://kuru-log.net/

皆さんはジョージアという国にどんな印象を持っていますか?

実際にジョージアに住んでいると周知に伝えると、アメリカのジョージア州だと勘違いされることも少なくありません。ジョージアはヨーロッパの最東端に位置する小さな国。かつてはソ連の構成国の1つでしたが1991年のソ連崩壊に伴い独立を果たしました。(1995年まではグルジアと呼ばれていました)

今でも日本からジョージアへの直行便はなく、辿り着くまでに最短でも18時間程度かかります。ここで暮らす日本人もたったの数百名といわれているほどに日本人にはあまり知られていない国なのです。

私がそんなジョージアに移住したのは、魅力的なジョージアの自然や文化に魅了されたことに加えて、国外のデジタルノマドを誘致するための制度が整っているのが理由です。実は、ここ数年でにわかに日本人の旅人や海外ノマドの間でこのジョージアが注目されています。

デジタルノマド
IT(情報技術)を活用して国内外を「ノマド(遊牧民)」のように移動しながら、主にリモートワークで働く人のことを指す。時間や場所に縛られないこの暮らし方は自由度が高い一方で、海外移住ならではの不安材料も持ち合わせている

今回は魅惑の国ジョージアの魅力を文化・生活・税制などさまざまな面から紹介したいと思います。ネット検索だけでは知り得ないリアルなジョージア生活を知ることができますのでぜひ最後までご覧ください。

デジタルノマドが集まる国。なぜ、ジョージアは人々を惹きつける?

ジョージアの国土面積は北海道よりひとまわり小さい6万9,700㎢、人口約370万人の小さな国です。この小さな国になぜ世界中からノマドワーカーたちが集まるのでしょうか?

この地で会う日本人の旅人たちと言葉を交わすと、みな揃って「沼る」という言葉を口にします。「沼る」というのは居心地がよすぎで、他の場所に移動し難いことを意味する言葉。

人々を「沼らせる」ジョージアの魅力を掘り下げてみていきましょう。

① 優しさあふれる人柄

ジョージア人は家族思いで純朴な人が多く、外国人に対しても親しみを持って接してくれます。AirBnBで宿泊すると、滞在先のホストが食事を振る舞ってくれたり、庭で採れたフルーツを分けてくれたりするのが日常茶飯事。

特に、ジョージア人には日本好きな人が多く、日本人であることを伝えると「日本いいよね!」と笑顔で握手を求められることもしばしばあります。ジョージアでは相撲や柔道が盛んなことや、若い世代の間ではアニメが流行っていることも日本を身近に感じてくれる要素になっているのだと思います。

ただ、日本人と比べれば時間にルーズだったり、時々ジョージア人同士で言い争っているのを道端で見かけたり、トラブルに巻き込まれたりするケースもあるので、当然すべての人が一概にそうでないことも認識しておく必要もあります。

② 旅人を魅了する独特の文化

ジョージアでは学生時代に芸術を学ぶ人が多く、街を歩くと至るとこで目に飛び込んでくるストリートアート。首都トビリシの中心部には美術館や博物館、オペラハウスなどが集まる通りがあり、ジョージアの新旧アートシーンを肌で感じられます。

また、古くから存在するジョージア固有の文化であるジョージアンダンス、ジョージア料理、ジョージアワインもワクワクを引き立てるポイントの一つ。食の事情については詳しく後述しますが、実際にジョージアに来て、古くから根付いているこの固有の文化をぜひみなさんにも肌で体感してほしいものです。

③ 人々を虜にするジョージアワインとローカルフード

ジョージアは過去にいろいろな国の支配下に置かれた背景から、複数の文化が入り混ざった独特の食文化があります。

その中でも代表的なのが、ジョージア人のソウルフードともいえる「ヒンカリ」。

厚めの皮で包まれた大きな小籠包のような見た目で、一口食べると中から大量の肉汁が溢れ出してきます。ヒンカリには肉汁をこぼさないように食べるというルールがあり、食べ方を間違えるとジョージア人からものすごく怒られます(笑)。こだわりという点では日本人にとっての寿司のような存在というと伝わりやすいかもしれません。

それ以外にも、松屋で一時販売されたことで有名になったシュクメルリやハチャプリ、オーストリ、ハルチョーなどジョージア料理は日本人の口に合うものが多く、友人たちと食事に行く際もジョージア料理店を選ぶことが結構あります。ただ、ジョージア料理にはパクチーが使われていることが多いので、苦手な人はちょっと注意が必要です。

外食費は飲み会で1,000円、高級レストランで3,000〜5,000円が相場

外食費については、ジョージア料理店は日本と比べるとかなり安く収まります。飲み会で割り勘をすると一人1,000円程度で済むことも多いですし、ちょっと高級なレストランでも一人3,000〜5,000円くらいが相場です。

また、今年に入りトビリシ市内でアジア料理店が増えてきました。日本食や中華料理、韓国料理、タイ料理などジョージア料理以外の選択肢も増えてきたことは我々日本人にとっても嬉しい出来事です。

ワイン発祥の地ならでは。お酒好きなら絶対に外せないジョージアワインは1L300円から購入可能

ジョージアはワイン発祥の地としても知られ、8,000年の歴史を誇るワイン大国です。

今でも「クヴェヴリ」と呼ばれる素焼きの壺(甕)でワインを醸造する独特の製法でつくられ、日本で一般的に販売されているワインとはまた違った味わいを楽しめます。「クヴェヴリ」を使った独特の製法はユネスコの無形文化遺産にも登録されているほどなのでジョージアに訪れる機会があればぜひ一度は試してみていただきたいと思います。

ワイン専門店や、一部のスーパーマーケットにはワインを量り売りで販売している所もあり、1L300円程度から購入できてしまいます。レストランでも1Lのデキャンタが600円くらいで注文できるお店もあり、ジョージア人にとってワインが身近であることが分かります。

美しい街並みだけではない、ジョージアのリアルな風景

Googleの画像検索でジョージアの写真をみると、この写真のような美しいヨーロッパの街並みを目にすることが多いと思います。中心部の大通りは綺麗に整備されていて、時々ストリートミュージシャンなどもいて、ヨーロッパならではの雰囲気を楽しめます。

ただ、中心部から少し離れたり裏通りを歩いたりすると、下の写真のような旧ソ連時代の面影を色濃く残す古い建物に囲まれた景色に移り変わります。むしろ普段の生活では、後者の景色に囲まれている時間がほとんどです。

ジョージアの一人当たりGDPは2023年推計で7,600USD/年程度と、先進国と比べると裕福とは言えません。ここで暮らす地元の人々の多くが質素な暮らしをしています。こういったギャップをリアルに肌で感じるのも学びが多くあります。
(データソース:ジョージアの一人当たりのGDPの推移

ロシア戦争をきっかけに様変わりした暮らしの環境

コロナ前には、月5万円で生活ができると言われるほど、物価が安かったジョージアですが、2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争や、円安が大きく影響し、とりまく生活環境は一変しました。

仕事:月収5.5万〜100万円超の格差

ジョージア国家統計局が発表した2022年第4四半期時点のジョージア人の平均月収は687.57USD。日本円に換算すると約10万円程度です。前年同期比で21.2%も増加していて、ロシア・ウクライナ戦争による物価上昇と同時に現地人の所得も大きく変化しました。
(データソース:https://www.agenda.ge/en/news/2023/1103

実際にジョージア人の友人から聞いた話によると、現在でも月2万円程度の月収で生活する人もいれば、ある人は大学卒業後すぐに始めた事務の仕事でもらえた月収55,000円程度だそうです。

その一方でアメリカの企業と労働契約を結び、ジョージア国内から100%リモートワークで仕事をし毎月100万円以上稼ぐ人もいるようで、現地に住むジョージア人の収入格差はかなり大きいのだと実感しています。

家賃:ここ1年で20〜50%増

首都トビリシの2023年時点の家賃相場は、個室の1ベッドルームで最低500USDくらい(日本円で約75,000円)が相場です。もちろん立地条件や建物の新しさ、広さによってまちまちですが、中心地の新しい物件は最低でも700〜1,000USDくらいします。

2022年2月にロシアに・ウクライナ戦争が始まる前までの家賃相場は今よりずっと安い状況でした。戦争前までは300〜400USDでも一人暮らしなら十分な広さ・クオリティの部屋が借りられたので、少なくともこの1年で家賃相場は20〜50%程度上がっている感覚です。

急速な家賃上昇はロシアの戦争がきっかけで、徴兵を逃れたい11万人ものロシア人がジョージアに移住してたことが理由だと言われています。現在私は日本人の知人が運営するシェアハウスに住むことで家賃を500USD未満に抑えていますが、家賃の高騰はノマドワーカーたちだけでなく、元々住んでいる現地の人々にも大きな影響を与えています。

この他にも飲食店やスーパーマーケットで買う食材や日用品も目に見えて値上がりしてるのを感じます。2022年の初めに比べて全体的に1割くらい高くなっています。さらに追い討ちをかけるように2022年には急激な円安が進み、毎月の生活費は戦争前に比べて1.5倍近くになっています。

この環境変化によりジョージアに長期滞在する日本人ノマドワーカーが減少してきているのも事実です。

デジタルノマドに優しい税金制度や保険料

ジョージアでは183日以上滞在すると納税の義務が発生します。必要書類を揃えて市役所に届け出を出せばその日のうちに、個人事業主登録ができてしまいます。しかもスモールビジネスステータスに登録すれば個人が支払う税率は売上の1%。この魅力的な税制を求めてジョージアに移住するノマドワーカーたちもたくさんいます。

ただし、スモールビジネスステータスが適用されない条件も存在しますし、日本の非居住者条件や、日本とジョージアの租税条約の内容なども把握しておく必要もあるので、より詳しく知りたい場合は、一度国際税務の専門家に確認することをオススメします。

また、ジョージアで生活している間の保険についてもお話ししたいと思います。ジョージアに滞在するノマドワーカーたちは以下3つのパターンで保険に入っている人が多い印象です。

① オンラインで加入できるノマド保険に加入

欧米諸国に本社を置く、Safty WingやWorld Nomad、グローブパートナーなどの海外旅行保険は、世界中どこからでもオンラインで加入でき、月額数十ドルから加入できるため大変便利です。

② クレジットカードに付帯されている海外旅行保険を利用

海外旅行に行く際も、クレジットカードの海外旅行保険を利用している方は多いと思いますが、滞在期間によってはクレジットカードに付帯した保険で賄えることもあります。

基本的にクレジットカードの海外旅行保険適用期間は90日間であることが多いため、利用付帯と自動付帯のカードを複数枚持っていれば6ヶ月以上の保険期間を網羅できる場合があります。

③ 現地の保険に加入

ジョージアの場合は現地の医療保険に加入するという選択肢もあります。
中には現地通貨(ジョージアラリ)で1日1.5ラリ(約84円)で加入でき、ほぼ100%医療費をカバーしてくれるものもあります(ジョージア国内の適用範囲に限る)。私はジョージアに長期滞在しているのでこの現地の医療保険に加入しています。

大自然や温泉、スポーツ観戦…… 選択肢だらけの休暇の過ごし方

① コーカサスの大自然を身近に感じられる小旅行

ジョージアの魅力の1つは首都トビリシから車で1時間以内で大自然に囲まれたグランピング施設や、ワイナリーに気軽に行けること。グランピングは複数人で割り勘をすれば一泊10,000円以下で泊まれ、ワイナリーも一人3,000〜5,000円程度でワインの飲み放題と食事が楽しめます。

もう少し遠出をすれば、まるでRPGのゲームの世界のような壮大な景色を拝むことができます。バスを使えば3時間程度離れている場所でも1,000円以内で行けますし、配車アプリを利用しても1時間くらいまでの場所なら2,000〜3,000円程度で行けてしまうのが醍醐味。

② 実は温泉地としても有名

首都トビリシの名称は「暖かい」を意味するトビリという言葉に由来していると言われているほど、トビリシには温泉施設がたくさん存在しています。ジョージアの入浴システムは数人で個室を貸し切るスタイルが主流で、広さにもよりますが、相場は1時間あたり2,000円強〜10,000円。

数は多くありませんが、1人でも気軽に入れる公共浴場もあり、800円くらいから利用できます。中にはセルフロウリュウができるサウナがついた施設もあり、サウナ好きにはたまらない休暇を過ごせます。

③ スポーツ観戦やオペラ鑑賞などがリーズナブル

トビリシ市内では頻繁にスポーツイベントや音楽イベントが開催されています。2023年はラグビーやバスケットボールのワールドカップが開催されることもあり、カップ戦や親善試合がよく開催されています。街の中心部にあるオペラハウスではオーケストラやバレエ、オペラなどの公演が開催されており芸術に触れることも気軽にできます。

驚くのはそのチケットの安さ。スポーツイベントも、音楽鑑賞も安価な席なら600〜700円くらいから購入することができます。もちろんスポーツイベントは正式な国際試合ですし、オペラやオーケストラもジョージア国外でも活躍するような本物のプロによる公演ですので、コストパフォーマンスを鑑みればとてつもなくおトクとしか言いようがありません。

スポーツで熱狂するもよし、オペラやオーケストラでヨーロッパの芸術を堪能するもよし。この気軽さはジョージア以外ではなかなか味わえないかもしれません。

まとめ:生活費が安い国=✗。人の優しさや独自の文化、大自然がジョージアの魅力

あまり知られていないジョージアの魅力をお伝えしつつ、そこでのリアルな暮らしと物価事情についてお話ししていきましたが、いかがだったでしょうか?

ネットで検索すると「ジョージア=生活費が安い国」として紹介されていることが多くあります。ですが2023年現在はインフレと円安の影響で、質素に暮らしていても毎月15万円程度の生活費は必要になりました。

ただ、ジョージアの魅力は物価の安さではなく、そこで暮らす人々の優しさや、古くから根付くジョージア独自の文化や大自然にあると思います。また、ジョージアもウクライナと同様に2008年にロシアから侵攻を受け国土の20%がロシアの占領下にある複雑な事情を抱えていることも忘れてはいけません。

この記事が皆さんのジョージアのリアルを知るきっかけになれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

写真・文:車 俊治(Kuruma)
編集:ヤスダツバサ(Number X)

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