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【現地人に聞くアメリカ・ニューヨーク(NY)🇺🇸事情】移民の街でニューヨーカーが生き続ける理由とは? 文化や物価、チップ事情を解説

ブルックリンのダンボ地区からマンハッタンの摩天楼を臨む美しい景色。ハドソン川に掛かるブルックリンブリッジは、1883年に開通したアメリカで最も古い吊り橋

Alicia Keysが歌う「Empire State of Mind」では、眠らない街、コンクリートジャングルといった歌詞で表現されるニューヨーク(NY)。しかしながら住む場所によって、その印象は大きく異なります。 

 

写真・文:上野朝子
ニューヨーク市ブルックリン在住のライター、コンサルタント、キュレーター。1993年から毎年仕事でニューヨークを訪れていましたが、2009年に移住してみると、訪れるのと暮らすのではニューヨークの印象が大分違うことがわかりました。現在はマンハッタン生まれの夫と暮らしながら、ペットを飼うことを検討中です。 

実績)
ライター:
「暮らしの手帖」(暮しの手帖社)、「Dean & Deluca Magazine」(WELCOM.CO.LTD)、「大人になったら着たい服」(主婦と生活社)、「MASAKI」(扶桑社)などで、ニューヨークの暮らしやニューヨーカーへのインタビューを連載中。近著に『ブルックリン散歩BOOK』(実業之日本社)がある。
コンサルタント:日本の行政機関NY支部のデザイン・日用品プロジェクトのアドバイザーとして、中小企業のニューヨーク進出を支援。
キュレーター:NY発ウェブショッピングサイト「Anzu New York」のディレクションを担当。
 
・Instagram: https://www.instagram.com/uenoasako/
・Voicy: https://voicy.jp/channel/2983
・Website: www.asakoueno.com
・Anzu New York: https://www.anzunewyork.com
・X:https://x.com/asakoueno 


私が暮らすブルックリンのパークスロープ地区は、ブラウンストーンと呼ばれる、1800年代後半に建築され、歴史的建造物に指定されているタウンハウスが立ち並ぶ、ブルックリンの中でも緑豊かな住宅地区。

タウンハウスが続くパークスロープ地区の風景。背の高い街路樹が心地良いアーチを作る風景にいつも癒される

マンハッタンのロウワーイーストサイドまで地下鉄で20分と近距離でありながら、大都市の印象が強いマンハッタンと比べると、時間の流れがゆったりしているところにブルックリンの魅力を感じています。 

近所にはプロスペクトパーク(設計者は、同時期にセントラルパークを設計したフレドリック・ロー・オルムステッドとカルヴァート・ヴォー)があり、週末のグリーンマーケットやピクニックの人気スポットとして、地元市民の憩いの場になっています。旅行者の姿はほとんど見ることがありません。

夏にはフリーのコンサートやムービーナイトも行われるプロスペクトパークは、市民の憩いの場所。この日はウィークデーで人は少なかったが、週末は、子連れや犬連れ、カップルやグループなど、たくさんの人でいつも賑わっている 

変化し続ける街。パンデミックを乗り越えたニューヨーク

マンハッタンのソーホーの石畳。旅行者の多いこの地区も、路面店の上は住宅になっていることが多い。56平米の1ベッド1バスルームのアパートの家賃は、ひと月5,000ドル(約78万円)くらい

アメリカ全体の大卒の平均初任給は日本の2倍以上(約640万円)

アメリカでは専門性の高い仕事に対しては、初任から高い給料が支払われるのが一般的。特にニューヨークでは、他の州に比べて物価が高いため、物価の高さを考慮して給与額が決定されていることが多いと聞いています。

快適な暮らしのために必要な収入は約2,160万円

SmartAsset」の2024年3月19日の記事によると、単身者がニューヨーク市内で安全で快適に暮らすには、時給で66.62ドル、年収で138,570ドル(約2,160万円)が必要で、家賃や食費といった基本的な生活費として推定で7万ドル(約1,000万円)かかるといわれています。

これは、マンハッタンの中でも生活水準の高い単身者の暮らしであり、それ以下の収入で暮らしているニューヨーカーもたくさんいます。一番のネックは家賃が高いこと。年収1,000万円でその3割を家賃に充てられれば、まともなアパートで暮らせるかもしれません。若い頃はアパートをシェアしていたというニューヨーカーの話をよく聞きます。 

インフレが続くニューヨーク、物価感覚は日本の約4倍

ブルックリンのサンセットパーク地区にある、かつての巨大な工場と倉庫街を活用した複合商業施設「インダストリーシティ(Industry City)」には、レバノン系の老舗食材店「ザハディーズ(Sahadi's)」の2号店が入っている。この店では一般的な食材の他に、レバノン特有の薄くて柔らかいパン「サジ」をその場で焼いて、ラム肉の薄切り(シャワルマ)やペルシャキュウリなどのトッピングをのせて手早く巻くサンドイッチも購入できる

パンデミックの影響でインフレが続いているニューヨーク。円安の影響もあり、現在のニューヨークの物価感覚は日本の約4倍といわれています。私も物価高騰が市民の日常生活に大きな影響を与えているのを実感する毎日……。

家賃、食料品、外食費、チップ、交通費、不動産価格などが上昇しており、便乗値上げも見られます。世知辛い世の中になってきました。 

ニューヨークのチップ事情にも変化が

以前は、基本的にはテーブルについて食事をするウェイターサービスやバーでのドリンクオーダーが対象でしたが、パンデミック後にはコーヒーショップをはじめとするカウンターサービスへのチップも一般的になってきました。

チップ額を選ばないと決済できないコーヒーショップ

満を期してマンハッタンからブルックリンに進出した「Café・Kitsune (カフェ・キツネ)」。ブルックリンの中で最も高級なブルックリンハイツ地区のそばにあり、富裕層の顧客が多い

特にパンデミック後は現金を使わない人が増え、コーヒーショップではカード決済時にタッチ画面に表示されるチップ額を選ばないと決済ができません。ただし、提示される額に不満があれば、カスタムチップ(好きな金額を打ち込める)やノーチップ(チップなし)も選ぶことができます。私は7ドル以上のメニューを選んだときは、カスタマーチップとして1ドル払っています。 

レストランのチップは22〜25%以上

チップのパーセンテージは、以前は15〜20%でしたが、最近では22〜25%以上が多くなっています。レストランではチップ制度廃止の動きもありますが、単に、メニューにチップのパーセンテージを上乗せしているだけで、あまり普及していません。ある店は、チップ込みだったのに、新たにチップを乗せて払ってしまったことがあって、それ以来、精算時の伝票にはしかり目を通すようになりました。

ブルックリンのコブルヒル地区にあるレストラン「ルッコラ(RUCOLA)の店内。ブレックファストからディナーまで、終日営業している人気店

デリバリーにもチップが必要

アプリやサイトからのデリバリーのチップ制度も変わりました。以前はデリバリーの際にドライバーにチップを現金で3〜5ドル渡すだけでしたが、今は決済画面で料理人へのチップを請求され、デリバリーのドライバーにもチップを渡すことが多くなっています。 

現状に不満を漏らすニューヨーカーも多い

昨年のニューヨークタイムズに、現状のチップの支払いに疑問を持つニューヨーカーが多いという記事が出ていました。内容の多くは「メニューの値上げは仕方ないかもしれないが、チップまで強制的に値上げするのは理解し難い。飲食店のオーナーは安い賃金を消費者にチップという名目で肩代わりさせている」というものでした。もともとニューヨーカーは「右に倣え」が嫌いな人が多いので、こうした意見が出るのは特別なことではありません。私もこの意見に大賛成です。

ラーメンやカツサンド…… 衰えない日本食ブーム

ブルックリンのグリーンポイントにできた出汁のお店「ダシ オクメ(DAHI OKUME)」の店内。グリーンポイントは、昨年ニューヨークタイムズに「ブルックリンのNEW “little TOKYO”」』と紹介されるほど、日本茶、唐揚げ南蛮弁当が美味しいカフェ、蕎麦屋、ラーメン店など日本の食文化を伝える新しい店が集まるスポット

一杯5,000円の“気軽に食べづらい”ラーメン

ニューヨークにも美味しいラーメンショップが増えてきました。ラーメンは日本人だけでなく外国人にも人気があります。パンデミック前は一杯17ドル位でしたが、今は25ドル前後。税金とチップを足すと一杯5,000円位。気軽な値段ではありません。

最新のブームはカツサンド

ニューヨーカーに知名度の高い日本食としては、おにぎりや抹茶も挙げられますが、最近のトレンドはカツサンド。ブルックリンのグリーンポイントにオープンした「TAKU SANDOは、カツサンドやコロッケサンドなど日本のサンドイッチがメインメニューです。洗練されたカジュアルなインテリアもSNSで話題になっています。

引っ越しを余儀なくされるニューヨーカーが増殖。ニューヨークの不動産事情

ブルックリンでブティックを営む女性のアパートは、ブラウンストーンの古い建物。最初は賃貸だったけれど、途中でこのアパートを購入し、20年以上暮らしているそう

ニューヨークの家賃には上限がありません。この10年で1.5倍から、地域によっては2倍以上に跳ね上がりました。私が暮らすパークスロープ地区の1ベッドルームのアパートも、13年前は月2,300ドルで見つけられましたが、今では同じ間取りの物件が3,600〜4,000ドルが相場です。これだけの家賃を払っても、特に古い建物では水回りや冬のセントラルヒーティング、お風呂のお湯の温度などの問題が多いです。

ブルックリンは購入物件が人気

2023年の「Bloomberg」の記事によると、1,000万ドル(当時の価格で約12億9,000万円)以上の値段が付いた住宅の多くは、マンハッタンを抜いてブルックリンにあります。10年ほど前はマンハッタンに次ぐ2番目(値頃感という面で)の選択肢でしたが、今はブルックリンを第一希望とする人が増えています。生活の質やコミュニティー意識、ブルックリンならではの大きな都市の小さな街の感覚が人気の理由として挙げられます。

安い賃貸物件から高級住宅へ変貌するブルックリン

今のブルックリンの人気の発端は、90年代後半ごろに遡ります。高騰するマンハッタンの家賃が支払えなくなったアーティストやヒップスターたちが、ブルックリンのウィリアムズバーグ地区に移り住み、彼らが低予算でセンス良く暮らす様子や、手作り感覚のお洒落なカフェやショップがブルックリンスタイルとして注目されるようになったのです。

ブルックリンのドーナツショップはレベルが高い。Fan-Fan Doughnutsもその一つ。ここの大きくて甘いドーナツは、一回食べたら忘れられない

今では、その利便性や人気から、ブルックリンの中でもマンハッタンに近いハドソン川周辺の土地が急激に高騰しています。手作り感覚だったブルックリンスタイルは姿を消し、“ブルックリン=高級住宅地”の趣が広がっています。

ときの流れには逆らえませんが、2000年当時からこの街を知る私にとって、注目され始めた頃のブルックリンのユニークさが消えてしまうのは正直寂しいです。それでも、短期間で住みやすい街を作り広げていくこの街の開拓エネルギーには、たくましさを感じています。

今も昔も“人種のるつぼ”がニューヨークのキーワード

ブルックリンのパークスロープ地区にある公立病院のエントランス

昨年、ブルックリンの病院に入院するという経験をした私は“人種のるつぼ”を改めて体感しました。お世話になったドクターや看護師など、医療従事者の人種は、フランス、ロシア、イギリス、アフリカ、南米、オーストラリア、中国、韓国、インド系など多岐にわたりました。患者の人種も様々で、英語を苦手とする人もたくさんいました。

ニューヨークらしい病院のサービスだと感じたのは、通訳アプリサービスが充実していたことです。私は、ベーシックな生活用語は大体英語で理解できますが、医療用語となると自信がなかったので、このサービスを利用しました。母国語(日本語)の通訳者をアプリ越しに介してドクターの説明を聞き、自分の症状を伝えられたおかげで、海外での入院も不安を感じることはありませんでした。

それでも、“移民の街”ニューヨークで暮らす面白さ

週末のブルックリンのグリーンマーケットには、さまざまな人種の住民たちが集まる 

もし、ニューヨーク以外にアメリカで住みたい場所があるかと聞かれたら「ない」と答えるでしょう。物価の高騰で住みにくくはなっているものの、ニューヨークは“移民の街”。それがこの街をユニークにしているのは確かです。ここにいると移民(私もそのひとり)が守られている安心感があって、その意味では他のどの州よりも住みやすい。

つい最近、イタリア人が多いポットラックパーティ(ゲスト含めて全員で料理を持ち寄る)に出かけました。言葉も料理もイタリアンがメインでしたが、そこがまた楽しくて、日本人の私も壁の花ではいられず、共通語の英語で自然とその場に溶け込んでいました。
 
ニューヨークの暮らしを楽しく思うかどうかは、私次第。人種だけでなく、人々には様々な考え方があり、それを平等に扱うことを常に意識するようになれたのは、この街のおかげです。こんな私も、移住してしばらくは「君の意見は?」と聞かれて怯むこともありましたが、今は違います。私もタフなニューヨーカーになったなあと、つくづく思う今日この頃です。

写真・文:上野朝子
編集:ヤスダツバサ(Number X)

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