トラベルライター・中村洋太流 企業・メディアに喜ばれる旅行記事の書き方
「旅をして、その体験を文章にする」
一見 自由で楽しそうに聞こえるものの、実際にはどのように書けばいいのか悩むことも多いのではないでしょうか。とくに、個人の趣味で書く文章とは異なり、仕事として依頼された旅行記事となると、なおさら頭を悩ませてしまうかもしれません。
そこで今回は、旅行レポートの執筆を依頼された際に、企業やメディアから喜んでいただける視点の持ち方や書き方のコツを、具体例を交えてご紹介します。
ぼくは、旅をしてエッセイを書く「旅エッセイスト」として活動しています。
例えば、この1年では、オーストラリアやドバイ、フランス、フィンランドなどの国を訪ねたほか、東北一周自転車旅や、「大阪から博多へ 山陽道678km徒歩の旅」など、様々な旅を行い、紀行文を書いてきました。と言っても、基本的には個人のnoteで書いているため、報酬がない分、好きなように書けます。
一方で、ときに企業から依頼を受けたり、メディアに寄稿したりすることもあります。そうした経験から学んだ、トラベルライターとしての心得をシェアできればと思います。
#01 依頼内容の正確な理解
最も大切な点は、クライアントからの依頼内容を吟味し、「何を求められているのか」を明確にすること。仕事として依頼される以上、そこには必ず「記事の目的」が存在するからです。
どんなに表現豊かな旅エッセイを書けたとしても、クライアントの意向を正確に把握し、記事に反映させられなければ、評価されなくなってしまいます。
少し具体的な例で見ていきましょう。
昨年8月にオーストラリアを旅行した際、ぼくは「ソフトバンクニュース」というメディアから記事の執筆を依頼されました。
シドニーとメルボルンで4泊ずつしたので、それぞれの都市で1本ずつ記事を書いてほしい、ということでした。要望がそれだけであれば、都市の概要や、訪れてみて感じたことなどを自由に書けば良いのですが、今回は別のテーマがありました。
そのテーマは、「トラベルライター直伝! スマホでの撮影テクニック」。
トラベルライターであれば、必ず旅先で写真を撮ります。なので、プロのカメラマンではないものの、普通の人よりは旅の写真を撮り慣れています。かつてはぼくも一眼レフを持って旅していた時期がありましたが、最近はほとんどスマホのみです。カメラの高性能化もあり、よっぽどのこだわりがなければスマホでも十分に良い写真が撮れます。
ソフトバンクでは、カメラ性能の高さが魅力の「Google Pixel」を販売していることもあり、「機能の特長を伝えて、商材に興味を持ってもらう」ことを目的としました。貸与してもらった「Google Pixel」でオーストラリア旅行の写真を撮り、現地の魅力を紹介しつつ、撮影テクニックも伝える、という内容です。
#02 事前準備の徹底
「記事の目的」が把握できたら、次は取材前に何をやっておくべきかを考えます。何も考えずにただ現地で写真を撮るだけでは、帰ってきてから、「なんだか風景の写真ばっかりになってしまったな」など、バリエーションに乏しくなる可能性があります。
#02-1 商材の特長(情緒的価値、機能的価値)を理解する
やはり撮影テクニックを紹介するのであれば、風景だけでなく、食や人、夜景、動きのある被写体など、様々なシチュエーションに応じてテクニックを紹介するのが理想でしょう。
そのため、まず自分がやったことは、一般にスマホの撮影テクニックや構図にはどんなものがあるかを網羅することでした。図書館で本を借りたり、ネットで記事を読んだりしました。
#02-2 撮影スポットや撮れ高をシミュレーションしておく
次に、それぞれの撮影テクニックを、シドニーのどの観光名所で発揮できそうか、ということを考えました。
例えば、「夜景の撮影テクニックを紹介するならこの場所が良さそうだな」とか、「メルボルン州立図書館は対照的な建築がおもしろいから『シンメトリー構図』を取り上げられそうだな」とか、そのような「当たり」を事前につけておくことで、抜け漏れがなくなり、記事の失敗を防ぐことができます。
一方で、事前に想定できる範囲内で済んでしまっては、記事は及第点で終わってしまいます。やはり実際に現地へ行く以上、「これはおもしろいな」というものを見つけて、当初の案からさらに良い記事になるよう加えていくのが理想でしょう。
今回のシドニーの旅では、到着初日に電車の駅を降りた瞬間、ホームから見えたシドニーハーバーブリッジが、実に美しく、思わずカメラを向けてしまう、ということがありました。
この感動や臨場感を伝えたいと思い、「額縁構図」と絡めてこの写真を紹介しました。これは当初の想定にはなかったことですが、個人的には紹介できて良かったですし、クライアントにも喜んでいただけました。
#02-3 後戻りできない写真・動画は複数枚撮影しておく
写真や動画などの素材を多めに撮っておく、というのも大切です。文章はあとからいくらでも編集できますが、写真はその場で撮っておかないと、あとから撮影することはできません。人物写真の場合、よく見たら目をつむっていた、ということもよくあるので、複数枚撮っておきましょう。
#03 読者を引き込む工夫・表現力
クライアントの意向を踏まえつつも、独自の視点を打ち出すことが、読者の心を掴むカギとなります。
もうひとつの例として、昨年10月に旅したドバイについて、「TABI LABO」に寄稿したときのことをご紹介しましょう。
このときは、ドバイ経済観光庁の意向を考える必要がありました。というのも、この旅は、ドバイ経済観光庁から招待されたものだったからです。旅費を出してもらえて、現地で様々なプログラムを体験できる素晴らしいツアーだったのですが、その代わり、メディアで記事を書くことが条件としてありました。
そのため、そこにはやはり「記事の目的」が発生することになります。今回であれば、ドバイの「食」に焦点を当てたい、というのが要望でした。
#03-1 メディア特性を理解して執筆する
メディアで寄稿する以上、そのメディアの特性やターゲットとする読者層を理解することも必要です。「TABI LABO」では、メディアらしい文体やトンマナがあるので、編集者に気に入ってもらえるような構成を考えました。
これはあくまで自分のイメージですが、「TABI LABOは、情報感度の高い20〜40代のビジネスマンに向けた、カッコよくてイケてるメディア」という意識を持って書いています。
#03-2 事実情報に自分の感想・感動を加える
ドバイといえば、世界一高いビルや世界最大のショッピングモールなど、存在するもののスケールの大きさが魅力のひとつになっています。また、アラビア風情を残すスーク(市場)があったり、少し足を伸ばせば広大な砂漠があったりと、近未来的な都市だけでない魅力もあります。
そこまでが、ぼくの知っているドバイでした。
しかし、今回の旅を通じてわかったのは、ドバイの食が、今急速に発展していて、レベルの高いレストランが増えている、という事実でした。単においしいだけでなく、サステナブル意識が高く、先進的な取り組みをしているレストランなどもあり、そういった店を取り上げてほしい、というのがドバイ経済観光庁の意向でした。
ここで、個人的な書き方のコツがあります。
「ドバイの食は今こうなっているんですよ」と読者に教えるような伝え方ではなく、素直に自分の驚きを伝えると、より共感が得やすくなると思います。
「いや〜、こんなの全然知らなかった」というスタンスですね。
今回の記事でいえば、「旅行会社時代にもドバイのツアーを扱っていたし、ドバイのことはある程度知っているつもりだった。しかし、『ドバイの食』に関しては、まるでわかっていない」と正直に打ち明けました。
#03-3 読者と目線の高さを揃える
自身をさらけ出すことで、読者と目線の高さが揃います。そのうえで、行ってみて初めてわかったことを書くのです。こうすると読者は記事を読みながら、ぼくが経験したことを一緒に追体験しやすくなります。
何かを調べて教えようとするのではなく、自分自身の驚きを書けば、それで十分読み手にとっておもしろい内容になります。
#03-4 ビジュアル表現にこだわる
このメディアは写真のクオリティを重要視していることを知っていたので、ドバイ経済観光庁やレストランから提供された写真を使用しました。
今回は幸いにも、こちらがお願いする前に先方から写真を提供してもらえましたが、頼まないともらえない場合がほとんどなので、自分であらかじめ何が必要かを把握し、先取りして動いていくことも重要です。
終わりに:柔軟さ×発信力×個性を鍛えておく
行き先や目的は様々でも、トラベルライターに求められるのは、依頼内容の的確な理解、事前準備の徹底、そして読者を引き込む表現力です。巧みな文章はもちろん、クライアントとメディア双方の期待に応える柔軟さと発信力、そして個性を、日頃から鍛えておくことが肝要といえるでしょう。
こうした努力により、「(他のライターではなく、)○○さんに頼んで良かった」と評価してもらえるアウトプットにつながると思います。そしてその実績がまた、トラベルライターとしての次の仕事を引き寄せるはずです。
写真・文:中村洋太
編集:ヤスダツバサ(Number X)