【現地人に聞くドイツ🇩🇪事情】ルール愛が強いドイツ人の魅力とは? 文化や物価、働き方事情を解説
ドイツといえば、サッカーやビール、ソーセージ、お城……。
「みんな定時に帰り、1カ月バカンスに行く」と言われることが多いので、働きやすい国というイメージも強いかもしれません。
学生時代、ヨーロッパに憧れ、大学でドイツ語を選んだことをきっかけに大学卒業後に移住。もうすぐ在独歴10年になるわたしが、ドイツのイメージと現実についてお伝えします。
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【文化編】几帳面って本当? 恋愛は? ドイツ生活のリアル
「ドイツ人は几帳面」と言われるように、とにかくルールが大好きな人たちだなぁ~と思います。
コロナ禍ではマスク着用や入場制限などのルールが細かく決められ、それを守らないと周りの人からすぐに注意されます。交通ルールもそう。騒音にもすごく厳しくて、掃除機や洗濯機を使う時間にも気を配らなくてはいけません。
とある日曜日、棚の取っ手が外れたのでトンカチを使って修繕していたら、1分後に下の階の人に文句を言われました(日曜は安息日)。義両親の実家でも、「シャワーは20時までに浴びてね」と家庭内規制されていたくらいです(苦笑)。
家はすごくキレイ、でもサッカー観戦後は豹変!?
あと几帳面だと思うのが、家の中。とにかくどこの家もキレイで、いつ誰が来てもいい状態、という感じです。水回りもピッカピカ。
その一方で、サッカー観戦中はみんな喉が張り裂けるんじゃないかと思うくらいの大声で選手をなじったりもします。試合後の電車の中は酔っぱらって大騒ぎする人たちで溢れ、いたるところにビールの空き瓶やガラスの破片が……。
几帳面だけど騒ぐときは騒ぐ、というのがドイツ人の印象です。
“告白しないで付き合う” ドイツ式の恋愛
驚いたのが、「付き合ってください」と告白せずにカップルになるということ。
ドイツは契約社会というイメージでしたが、何度かデートして手をつないでなんとなく…… と自然とカップルになるのが一般的です。ちなみに、わたしの夫(ドイツ人)は、わたしが日本人ということを踏まえて、ちゃんと告白してくれました。
逆に、ドイツ人の友人は、「(日本人の)あの子と付き合ってると思ったのに、相手はそう思っていなかった」と落ち込んでいたことも……。
なんでそんなに歩くの!? 散歩大好き
ドイツで人気なことといえば、ハイキング。森の中を歩いたり、芝生のうえでゴロゴロしたり、そういう時間を大切にします。
わたし自身、ドイツにきてから歩くことが増えました。友だちと会うのもカフェか公園かの2択。30分なら「徒歩圏内」という価値観です。みんなで誰かの家に集まっても、食事後は「散歩でも行くか」と言って歩く。
健康やBio、環境問題などに関心を持つ人がとても多いのも、「自然の中を歩くのが好き」というところからきているのかもしれません。
【物価編】家不足や電気代の高騰…… エネルギー危機でかなり厳しくなった生活
ロシアによるウクライナ侵攻により、世界的に物価が高騰。日本でもその影響は大きかったようですが、ヨーロッパはまさに「直撃」です。
資源エネルギー庁によると、日本と比べてドイツの電気代は爆上がり。
日本の電気代
2021年:28円/kWh
2022年:34円/kWh
2023年:35円/kWh
ドイツの電気代
2021年:42円/kWh
2022年:53円/kWh
2023年:67円/kWh
ニュースサイトで、2月に「暖房代を抑えるためには」という特集が組まれていたくらいです。行きつけのレストランも、値段は据え置きでセットのサラダがなくなりました。
あくまで体感ですが、スーパーでいつものように買い物しても2~3割くらい高くなったなぁ、という印象。みんな、生きるのに必死です……。
難民危機で家賃が急上昇、50軒申し込んでも引っ越せない
2015年、100万人以上の難民・移民がEU圏に押し寄せ、「難民危機」と呼ばれました。それをきっかけに、未曾有の家不足に。
「50軒申し込んでも引っ越せない」というニュースが飛び交うほどの状況で、当然家賃も高騰。現在も家不足が続いています。わたしのまわりにも、家が見つからずに日本に帰国する留学生が多くいました(外国人は信用度が低く家を借りづらい)。
家計の中で占める家賃の割合は3割弱でしたが、その割合は年々上昇しており、家賃負担は増加傾向にあります。
ちなみに、我が家はフランクフルトまで車で30分少々の郊外に位置し、人口1万人程度の村、広さ80平米、家賃700ユーロ(12万円弱)です。ただ、これはかなりラッキーな部類で、次に同じ条件で引っ越すなら、+200ユーロくらい覚悟しないといけません……。
お金を使う機会はかぎられているため、結果お得に?
円安や物価上昇などの影響で、やや「割高」なイメージのドイツ。ですが、ドイツには日本に比べてお金がかかる娯楽があまりないので、そういう意味では出費が少ないといえます。
友だちと会ってもスーパーでビールを買って公園で飲めばいいし、服は着れればなんでもいいし、夜ごはんは簡単なもの(パンやサラダなどの加熱しないKaltes Essen=冷たい食事)でいいので、お金を使うタイミングがあまりないんですよね。
DIY好きも多いですし、使い終わった服や本を寄付する文化もあります。消費するよりも長く使うのが好きな国なので、出費の機会自体は少なめです。
【仕事編】実際どれくらい稼いでる? 働きやすいが強烈な資格社会
働き方のお手本かのように言われるドイツ。「OECD(経済協力開発機構)の統計」を見てみると、平均賃金は58,940ドルです。日本は41,509ドル、OECD平均が53,416ドルなので、世界的にも高い水準といえます。
ただし、地域によってかなり差があり、ハンザ同盟(北ドイツの都市同盟)で栄えたハンブルク州は49,750ユーロ、フランクフルトがあるヘッセン州は47,500ユーロに対し、旧東ドイツだった5つの州は、そのまま州別給料ランキングのワースト5になっています。1位と16位の州の差は13,250ユーロ(約210万円)で、だいぶ差が大きいですね。
専門的な知識・経験が問われる資格/学歴社会
明確な資格/学歴社会となるドイツでは、どれだけ専門的な知識・経験があるかを問われます。募集条件には「〇〇の学士号を持っていること、専門が××であれば優遇」のように書かれていることが多く、そういったアピールポイントがない人は、ステータス作りから始まります。約2年間の職業教育を受けたり、インターン生として数カ月タダ働きをしたり……。
ドイツで就職することはもちろん可能ですが、日本とシステムがかなり異なるため、戸惑うかもしれません。
日本は社内教育が充実しているので「未経験OK」のところも多いですが、ドイツでそれは望めません。未経験でもできるのは限られた仕事のみ。なので、日本と同じ“新卒採用のノリ”で、まっさらな履歴書を持ってドイツに乗り込むと、かなり苦労します(体験談です)。
あまり残業しないけど…… その実態は?
残業について、ドイツはかなり誤解されています。ドイツでも残業をする人はたくさんいますし、定時で家に帰って、その後仕事をするのも当たり前。なぜなら、自分の仕事は自分のもので、他人は肩代わりしてくれないから。仕事が終わらなければそれは自分の責任、評価にダイレクトに響きます。
どの国にだって「絶対に終わらせなきゃいけない仕事」は存在するのですから、必要に応じて長く働くことがあるのは当然です。キャリアアップを目指す人や管理職ならなおさら。
それでも「ドイツには残業がない」と思われているのは、持ち帰り仕事の存在が知られていなかったり、大事な仕事を任されない現地在住日本人の声が大きかったりするからかもしれません。
日本人と比較したら残業しないことは事実ですが、それは多くの国でいえることですね……。
“ドイツ人は効率的に働く”は、一部間違い。
正直、そうとも言い切れません。効率的なのは、個人の働き方ではなく、システムのほう。資格や学歴によって与えられる仕事が分かれているので、適材適所しやすいのです。
簡単な仕事は、簡単な職業教育を受けた人に。
難しい仕事は、大学でそれを学んだ人に。
はっきりとした棲み分けがあり、クラスアップしたいなら、相応の資格や学位を取ってこいと言われます。
また、「労働時間貯蓄」というシステムがあり、今日2時間残業したらその2時間を貯めておき、別の日に2時間早く帰る、といったことが可能です。忙しいときに働いて暇なときに休む、という感じですね。こういう仕組みが、効率的な働き方につながっているのだと思います。
1年前から計画する1カ月間のバカンス
休暇は取れます。1カ月休むこともあります。が、それは半年~1年前から全員に希望を聞いて予定を組み、それを前提に仕事を調整して、はじめて可能になることです。
「明日から2週間休みまーす♫」は、さすがのドイツでも無理!
当然ながら、休む人が多ければ、仕事は滞ります。担当者不在で1カ月手続きが進まない、オフィスがガラガラで新しい仕事を受けられない、なんてことは日常茶飯事。決して、「1カ月休んでも仕事がまわる」わけではありません。
それでも「休暇を取る」という労働者の権利が優先されるので、みんな「休暇なら仕方ないか……」と受け入れて、社会が成立しているのです。
ドイツは働きやすいが稼ぐなら相応の努力が必要
労働者の権利に敏感で働きやすいのは事実ですが、「いい仕事」に就くためには職業教育や学位が必要ですし、キャリアアップのために勉強しなければ、給料はいつまで経っても上がりません。
丁寧に仕事を教えてくれるシステムはありませんし、「いい仕事」に就いたら、相応の仕事量と結果を求められます。そういうシビアな世界で生き抜けるのであれば、ドイツは「働きやすい国」で間違いありません。
もし生き抜けなければ? ずっと低賃金で簡単な仕事をして過ごすことになります。まぁそれでも、生活はできるんですけどね。
【まとめ】オンオフのバランスが大事! 自然の中でリフレッシュするドイツ流の生き方
ドイツの魅力は、ハイキングやサッカー観戦などのアクティブさと、家をきれいにしたりルールを守ったりする几帳面さが同居しているところ。よく働き、よく休み、趣味で騒ぎ、物や自然を大切にする。ドイツではそういうライフスタイルを大切にします。
朝早く起きて家を掃除して、家族で森を散歩して芝生で寝転がって日光浴、夜はソファでのんびり読書…… そんな生活に幸せを見出せる人には、ぴったりの国です。
ただ、わたしの経験は主に西・中央ドイツのものなので、もともと別の国だった東ドイツや、独自路線を歩むバイエルンをはじめとした南ドイツでは、様子がちがうかもしれません。
各地域の多様性もまた、ドイツの魅力ですね。
写真・文:雨宮紫苑
編集:ヤスダツバサ(Number X)