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【現役広報が考察】グローバルの広報スタイルは日本の未来? 欧米における広報の今を紐解く

「タイムマシン経営」という言葉を聞いたことはありますか?

特に、欧米などの海外で成功したビジネスモデルやサービスが少し遅れて日本に持ち込まれ、それらが成功することがよくあります。「タイムマシン経営」とは、こうした海外での流行を先んじてキャッチし、それを日本にいちはやく持ち込み、真似をしたり、少し改善を加えたりして展開する経営手法のことです。

「広報」の歴史がずっと長い欧米において、日本よりも進んだ手法がよく見られます。であれば「タイムマシン経営」と同じように、欧米で起こっている業界トレンドは、いずれ日本にもくるかもしれません。欧米における広報のあり方を学び、この点について考えてみます。

文:穐吉なな子(JAYID Inc. CEO/国立千葉大学 非常勤講師)
英ロンドン大学 King's Collage 戦争学修士卒業。2007年株式会社リクルート入社。在職中は社外広報やブランディングを主に担当。子会社では広報機能のゼロからの立ち上げや経営企画を歴任。2015年に退職後はヘルスTechベンチャーのシンガポール法人立ち上げに携わり、当時5歳だった子どもと2人でシンガポールへ母子単身赴任。帰国後に戦略コンサルティングファームを経て、2018年に戦略広報コンサルティング会社のJAYIDを起業。Number Xのメンバーにも参画。
・note:https://note.com/jayid_nanako
・Webサイト:https://jayid.co.jp/ja


欧米流はとにかく“自信たっぷり”で

日本と欧米の文化の違いは、コミュニケーションのあり方にまず表れます。例えば、日本の文化では謙虚さやチームワークが重要視される一方で、欧米では自己主張や個人同士での競争によって多くの活動が展開されます。

この違いは、広報メッセージの発信の場においても表れます。例えば、業界初の取り組みやサービスについて取材された場合、謙虚に対応する方が好感をもって迎えられます。

テレビや記者発表会で、こんなコメントを聞いたことはありませんか?

「私ひとりの力では何もできなかった、チームで取り組んだことで成果に繋がった」
「業界全体で取り組んでいきたい」

一方、欧米企業では広報も、担当者コメントも、「私・我が社の不断の努力と熱意、革新性が成果に結びついた」など、いち個人やいち企業の競争力や革新性を直接的にアピールすることがしばしば。日本の広報の目線からすると「自己主張が強い」と感じるような広報発信ではありますが、これが欧米での広報の一般的なあり方です。

今も従来型メディアの強い日本、変容が進む欧米

日本と欧米では影響力の強いメディアが違います。日本では依然として新聞や雑誌、テレビが影響力を持っています。一方、欧米ではソーシャルメディアやオンラインニュースの影響が大きくなっています。

もちろん日本でも「バズる」という言葉に代表されるように、オンラインニュースがソーシャルメディアで拡散され、一気に知名度をあげることも多くなりました。しかし、まだまだそれらは広報的には“ラッキーヒット”として扱われることも多く、そこまで評価されることは多くありません。そのため日本では昔ながらの大手メディアに所属する記者やTV局の担当者、大手制作会社の担当者へのアプローチが有効です。

欧米では、影響力を持つ個人に直接SNSアカウントなどを通じてアプローチします。特に、米国のような広大な国土を持つ国では、1つの新聞やテレビでの露出が全土に拡散されることはあまりなく、インターネットを通じた拡散を目指す方が拡散力が高いのです。そのため、欧米では今起こっていることをリアルタイムに、そして双方向でコミュニケーションをとることで露出を目指します。

今後、広報と記者との関係はよりフラットに?

日本と欧米ではコミュニケーションのスタイルも異なります。日本では比較的フォーマルなコミュニケーションが好まれる一方で、欧米ではより直接的でカジュアルなコミュニケーションを取るのが一般的です。

日本と欧米のコミュニケーションスタイルの違い

  • 日本:丁寧な表現や敬意を示す

  • 欧米:ストレートでカジュアル

例えば、メールの文面ひとつをとっても「いつも大変お世話になっております」から始まり、記者の最近の記事を読んでいることを示し、記事についてコメントをしたり、ときに褒めたりしながらコミュニケーションを開始します。そして、「自社のサービスに興味を持っていただけたら幸いです」など、基本的には“掲載していただくスタンス”のコミュニケーションが多いと感じます。

影響力は相対的に減少傾向だが、未だ影響力の強いメディア

一方、英語などでは敬語が存在しないという言語的な要因もあると思いますが、欧米ではストレート、かつカジュアルなコミュニケーションが展開されます。ソーシャルメディアのアカウントから直接ダイレクトメールなどを送り、「私はこんな面白いネタを持っているけど、興味あるかしら? あるなら私に連絡してね」といった具合で、極めてカジュアルにやりとりが始まります。

日本の広報スタイルが欧米化していく2つの理由

冒頭で「タイムマシン経営」について述べましたが、ここまで述べてきたような欧米型の広報は日本でも一般的になっていくのでしょうか。

私個人が思うに、今後影響力を持つメディアの種類や、メディア側とのコミュニケーションのあり方は欧米寄りになっていくのではないかと、2つの理由から予想しています。

#理由01 日系企業のグローバル展開の必要性

日本の企業は今後海外に進出していかないと立ち行かなくなる可能性が高いから。現在、日本の人口は1億2,000万人を上回っています。しかし、少子高齢化により、2048年には人口1億人を割り込み、2060年には8,674万人まで落ち込むと予想されています。さらには、人口のうちの多くを高齢者が占めるように……。

人口が多かった時代には、国内だけでビジネスを展開していても十分な利益を得られていましたが、今後、海外に出て行かざるを得なくなるはずです。そうした中で、欧米流のコミュニケーションは、否が応でも求められていくことになるでしょう。

#理由02  「ニューメディア」の台頭とSNS起点のコミュニケーション

SNS(ソーシャルメディア)やWebメディアだけでなく、動画や個人のインフルエンサーなど、いわゆる「ニューメディア」の台頭によるもの。現在も影響力の強い新聞や雑誌、テレビなどのメディアは、相対的にその影響力が落ちていく可能性があります。

ニューメディア
従来のテレビやラジオ、新聞といったマスメディアとは異なる新たな媒体。ソーシャルメディアやWebメディアなど、1980年代以降から普及が期待されていた情報メディアの総称

その中で、従来のような「大手メディアに掲載していただく」といった、いわば上下関係のような構図は薄まっていくでしょう。実際、「ニューメディア」の記者は、コミュニケーションが極めてフラットなことが多くなってきています。

例えば、「X(旧Twitter)」などのSNSから誰でもDM(ダイレクトメール)で情報提供ができたり、一度取材をしたら「Facebookメッセンジャー」「LINE」などで小さなネタでも気軽に遅れるようになったり…… と、従来とはすでにコミュニケーションのあり方が変わりつつあるのです。

BtoC領域の分かりやすい例でいうと、少し事件性の高いニュースが多いのですが、滝沢ガレソさんZ李さんコレコレさんのようなXアカウントもその一例だと考えられます。

日本の良さを残しながら独自の広報文化が花開く

今後、待ったなしで進む広報のグローバル化とメディアの影響力の変化。広報自身も、その変化に翻弄されるのではなく、時代の変化に応じて柔軟に変わっていくことが求められるでしょう。日本と欧米の広報戦略の違いを理解し、それに応じたアプローチを取ることが今後ますます重要になっていきます。

世界は広い。そして実にさまざまな文化的背景を持った人がいて、考え方もさまざまです。日本では“あうんの呼吸”で受け入れられることが、すんなりいかないこともしばしば。世界のさまざまな地域の文化や価値観に敏感に対応し、適切なメッセージングやコミュニケーションスタイルを少しずつ身につけていける広報が今後求められるはずです。

しかし、戦後日本は世界のどこにも類を見ない独特の成長を遂げたことからも分かるように、日本が完全に欧米化することは考えにくいでしょう。日本人が世界のあらゆるシーンで賞賛される“礼儀正しさ”“仕事の緻密さや正確さ”などを上手く組み合わせていくことで、広報の世界でもきっと独自の文化を築いていくはずです。

文:穐吉なな子(JAYID
編集:ヤスダツバサ(Number X

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