【現地人に聞くアメリカ・ニューヨーク(NY)🇺🇸事情】移民の街でニューヨーカーが生き続ける理由とは? 文化や物価、チップ事情を解説
Alicia Keysが歌う「Empire State of Mind」では、眠らない街、コンクリートジャングルといった歌詞で表現されるニューヨーク(NY)。しかしながら住む場所によって、その印象は大きく異なります。
私が暮らすブルックリンのパークスロープ地区は、ブラウンストーンと呼ばれる、1800年代後半に建築され、歴史的建造物に指定されているタウンハウスが立ち並ぶ、ブルックリンの中でも緑豊かな住宅地区。
マンハッタンのロウワーイーストサイドまで地下鉄で20分と近距離でありながら、大都市の印象が強いマンハッタンと比べると、時間の流れがゆったりしているところにブルックリンの魅力を感じています。
近所にはプロスペクトパーク(設計者は、同時期にセントラルパークを設計したフレドリック・ロー・オルムステッドとカルヴァート・ヴォー)があり、週末のグリーンマーケットやピクニックの人気スポットとして、地元市民の憩いの場になっています。旅行者の姿はほとんど見ることがありません。
変化し続ける街。パンデミックを乗り越えたニューヨーク
アメリカ全体の大卒の平均初任給は日本の2倍以上(約640万円)
アメリカでは専門性の高い仕事に対しては、初任から高い給料が支払われるのが一般的。特にニューヨークでは、他の州に比べて物価が高いため、物価の高さを考慮して給与額が決定されていることが多いと聞いています。
快適な暮らしのために必要な収入は約2,160万円
「SmartAsset」の2024年3月19日の記事によると、単身者がニューヨーク市内で安全で快適に暮らすには、時給で66.62ドル、年収で138,570ドル(約2,160万円)が必要で、家賃や食費といった基本的な生活費として推定で7万ドル(約1,000万円)かかるといわれています。
これは、マンハッタンの中でも生活水準の高い単身者の暮らしであり、それ以下の収入で暮らしているニューヨーカーもたくさんいます。一番のネックは家賃が高いこと。年収1,000万円でその3割を家賃に充てられれば、まともなアパートで暮らせるかもしれません。若い頃はアパートをシェアしていたというニューヨーカーの話をよく聞きます。
インフレが続くニューヨーク、物価感覚は日本の約4倍
パンデミックの影響でインフレが続いているニューヨーク。円安の影響もあり、現在のニューヨークの物価感覚は日本の約4倍といわれています。私も物価高騰が市民の日常生活に大きな影響を与えているのを実感する毎日……。
家賃、食料品、外食費、チップ、交通費、不動産価格などが上昇しており、便乗値上げも見られます。世知辛い世の中になってきました。
ニューヨークのチップ事情にも変化が
以前は、基本的にはテーブルについて食事をするウェイターサービスやバーでのドリンクオーダーが対象でしたが、パンデミック後にはコーヒーショップをはじめとするカウンターサービスへのチップも一般的になってきました。
チップ額を選ばないと決済できないコーヒーショップ
特にパンデミック後は現金を使わない人が増え、コーヒーショップではカード決済時にタッチ画面に表示されるチップ額を選ばないと決済ができません。ただし、提示される額に不満があれば、カスタムチップ(好きな金額を打ち込める)やノーチップ(チップなし)も選ぶことができます。私は7ドル以上のメニューを選んだときは、カスタマーチップとして1ドル払っています。
レストランのチップは22〜25%以上
チップのパーセンテージは、以前は15〜20%でしたが、最近では22〜25%以上が多くなっています。レストランではチップ制度廃止の動きもありますが、単に、メニューにチップのパーセンテージを上乗せしているだけで、あまり普及していません。ある店は、チップ込みだったのに、新たにチップを乗せて払ってしまったことがあって、それ以来、精算時の伝票にはしかり目を通すようになりました。
デリバリーにもチップが必要
アプリやサイトからのデリバリーのチップ制度も変わりました。以前はデリバリーの際にドライバーにチップを現金で3〜5ドル渡すだけでしたが、今は決済画面で料理人へのチップを請求され、デリバリーのドライバーにもチップを渡すことが多くなっています。
現状に不満を漏らすニューヨーカーも多い
昨年のニューヨークタイムズに、現状のチップの支払いに疑問を持つニューヨーカーが多いという記事が出ていました。内容の多くは「メニューの値上げは仕方ないかもしれないが、チップまで強制的に値上げするのは理解し難い。飲食店のオーナーは安い賃金を消費者にチップという名目で肩代わりさせている」というものでした。もともとニューヨーカーは「右に倣え」が嫌いな人が多いので、こうした意見が出るのは特別なことではありません。私もこの意見に大賛成です。
ラーメンやカツサンド…… 衰えない日本食ブーム
一杯5,000円の“気軽に食べづらい”ラーメン
ニューヨークにも美味しいラーメンショップが増えてきました。ラーメンは日本人だけでなく外国人にも人気があります。パンデミック前は一杯17ドル位でしたが、今は25ドル前後。税金とチップを足すと一杯5,000円位。気軽な値段ではありません。
最新のブームはカツサンド
ニューヨーカーに知名度の高い日本食としては、おにぎりや抹茶も挙げられますが、最近のトレンドはカツサンド。ブルックリンのグリーンポイントにオープンした「TAKU SANDO」は、カツサンドやコロッケサンドなど日本のサンドイッチがメインメニューです。洗練されたカジュアルなインテリアもSNSで話題になっています。
引っ越しを余儀なくされるニューヨーカーが増殖。ニューヨークの不動産事情
ニューヨークの家賃には上限がありません。この10年で1.5倍から、地域によっては2倍以上に跳ね上がりました。私が暮らすパークスロープ地区の1ベッドルームのアパートも、13年前は月2,300ドルで見つけられましたが、今では同じ間取りの物件が3,600〜4,000ドルが相場です。これだけの家賃を払っても、特に古い建物では水回りや冬のセントラルヒーティング、お風呂のお湯の温度などの問題が多いです。
ブルックリンは購入物件が人気
2023年の「Bloomberg」の記事によると、1,000万ドル(当時の価格で約12億9,000万円)以上の値段が付いた住宅の多くは、マンハッタンを抜いてブルックリンにあります。10年ほど前はマンハッタンに次ぐ2番目(値頃感という面で)の選択肢でしたが、今はブルックリンを第一希望とする人が増えています。生活の質やコミュニティー意識、ブルックリンならではの大きな都市の小さな街の感覚が人気の理由として挙げられます。
安い賃貸物件から高級住宅へ変貌するブルックリン
今のブルックリンの人気の発端は、90年代後半ごろに遡ります。高騰するマンハッタンの家賃が支払えなくなったアーティストやヒップスターたちが、ブルックリンのウィリアムズバーグ地区に移り住み、彼らが低予算でセンス良く暮らす様子や、手作り感覚のお洒落なカフェやショップがブルックリンスタイルとして注目されるようになったのです。
今では、その利便性や人気から、ブルックリンの中でもマンハッタンに近いハドソン川周辺の土地が急激に高騰しています。手作り感覚だったブルックリンスタイルは姿を消し、“ブルックリン=高級住宅地”の趣が広がっています。
ときの流れには逆らえませんが、2000年当時からこの街を知る私にとって、注目され始めた頃のブルックリンのユニークさが消えてしまうのは正直寂しいです。それでも、短期間で住みやすい街を作り広げていくこの街の開拓エネルギーには、たくましさを感じています。
今も昔も“人種のるつぼ”がニューヨークのキーワード
昨年、ブルックリンの病院に入院するという経験をした私は“人種のるつぼ”を改めて体感しました。お世話になったドクターや看護師など、医療従事者の人種は、フランス、ロシア、イギリス、アフリカ、南米、オーストラリア、中国、韓国、インド系など多岐にわたりました。患者の人種も様々で、英語を苦手とする人もたくさんいました。
ニューヨークらしい病院のサービスだと感じたのは、通訳アプリサービスが充実していたことです。私は、ベーシックな生活用語は大体英語で理解できますが、医療用語となると自信がなかったので、このサービスを利用しました。母国語(日本語)の通訳者をアプリ越しに介してドクターの説明を聞き、自分の症状を伝えられたおかげで、海外での入院も不安を感じることはありませんでした。
それでも、“移民の街”ニューヨークで暮らす面白さ
もし、ニューヨーク以外にアメリカで住みたい場所があるかと聞かれたら「ない」と答えるでしょう。物価の高騰で住みにくくはなっているものの、ニューヨークは“移民の街”。それがこの街をユニークにしているのは確かです。ここにいると移民(私もそのひとり)が守られている安心感があって、その意味では他のどの州よりも住みやすい。
つい最近、イタリア人が多いポットラックパーティ(ゲスト含めて全員で料理を持ち寄る)に出かけました。言葉も料理もイタリアンがメインでしたが、そこがまた楽しくて、日本人の私も壁の花ではいられず、共通語の英語で自然とその場に溶け込んでいました。
ニューヨークの暮らしを楽しく思うかどうかは、私次第。人種だけでなく、人々には様々な考え方があり、それを平等に扱うことを常に意識するようになれたのは、この街のおかげです。こんな私も、移住してしばらくは「君の意見は?」と聞かれて怯むこともありましたが、今は違います。私もタフなニューヨーカーになったなあと、つくづく思う今日この頃です。
写真・文:上野朝子
編集:ヤスダツバサ(Number X)